バルコムグループが今年3月、神楽をテーマにオープン。実際に着て記念撮影できる舞台衣装を置くほか、隔週土曜昼には北広島町などの神楽団によるイベントを開く。また6月に路面沿いの一角をそば打ち台に改装。13歳から地元同町で豊平流そば打ちを修行し、過去最年少の20歳で最高段位を取った職人が毎日手打ちする。
「爽快なのどごしを生み出すため、生地を切る前の薄く均一に伸ばす作業にこだわっています。せいろ蕎麦(1000円)は、麺の香りも楽しめるよう最小限の薬味と薄めのだしで提供。そば塩で食べるのもお薦めです」
夜は穴子の刺身、ウニホーレン、コウネなど県内定番料理のほか、飲み放題付きコース料理(5500円〜)も用意。酒は日本酒ベースの神楽ハイボールのほか、ビール、地酒、焼酎など約40種を置く。
「英語、ヴィーガンメニューを用意し、国内外の観光客のほか、50人規模のツアーも受け入れます。広島の文化発信の一助になれば」
本当かと思うが、会社に在籍しながら「静かな退職」と呼ばれる人が、相当数いるという。米国データ分析会社クアルトリクスが8月に発表した調査によると、日本企業の正社員のうち「静かな退職」は13%に上る。その特有な呼び方もやや気になるが、昇進や仕事への情熱はなく、さりとて退職することなく給料分くらいは働く。
近年は、入社したものの早期転職者が増え、人手不足が深刻化している企業も多い。転職する前の静かな働き方をそう呼ぶのだろうか。中小企業経営者にとって死活問題。何か打つ手はないのか。
広告制作のライフマーケット(南区皆実町)は来年10月で創業20周年を契機とし、四つの部門を分社化して持ち株会社制へ移行する計画だ。新会社は全て「ライフマーケット」の名を冠し、写真撮影の「フィルム」、映像制作の「カラーバー」、イベント企画・運営の「C3(シーキューブ)」、グラフィック制作の「デザイン」と分けた。
各社の代表取締役社長には20〜30代の社員を起用することにしている。写真家でもある藤本遥己専務(29)をはじめ、各分野で腕を磨いてきた人材を社長候補に人事案を詰めている。創業者の元圭一社長(49)は自らの経験も踏まえ、幾つか思い当たることがあった。本業の拡大発展に伴って、技術者集団ならではの自己主張のせいか、クリエイター同士の意見が衝突し、それぞれの創造性が十分に発揮されない場面も見え始めていた。決断するほかない。
元社長は、
「やる気を失ってからでは遅い。自ら経営することで見えてくるものがある。若いクリエイターの意欲、能力を引き出すためにどうすればよいのか、5年前ごろから分社化の構想を練っていた。社長に就くと意匠性や自由度が高まり責任も有為に働く。決算書の読み方や投資判断を身に付けるほか、社員一人一人が自分の仕事の損益計算を行った上で、粗利の一定割合を給与に還元する仕組みも取り入れている。原価管理への意識を磨きながら、銀行取引や投資計画といった経営の最前線に触れる機会も重ねた」
やりがいのある経営の楽しさを実感してほしいと言う。
起業の原点は広告写真。日本広告写真家協会が主催する国内最高峰の広告写真賞「APA AWARD」で最高賞を受け、高い意匠性が評価された。その後は映像、デザイン、イベント部門へ事業を広げ、今年9月期の売上高は前期比25%増の2億円を見込む。2030年は10億円の連結売上高を目指す。各社は独自の収益を追求し、グループ外の取引にも積極参入する方針だ。東京や福岡に続き、地方都市への展開も視野に捉える。
7月に出版事業「The Reason Publishing」を立ち上げた。「その理由」をキーワードに人や事業の背景を掘り下げる。第1弾は元社長と藤本専務がメキシコを旅した写真集「HOLA,MEXICO」。写真展で額装作品なども販売した。藤本専務は「商業写真は顧客主導になりがちだが、写真家自身が発信する場をつくり、新しいクリエイターを発掘したい」とし、京都国際写真祭のように街全体を巻き込むイベントの構想も描く。
今後こうした分社化が増えてきそうだ。むろんリスクもある。しかし静かな退職がまん延する危険は大きい。経営者も、働く人も発想転換してみる価値はありそうだ。